日本旅行医学会

MERSに関するQ&A

Q:中東呼吸器症候群(MERS)とは何ですか?
 
中東呼吸器症候群(MERS)はウイルス性の呼吸器疾患で、原因となるウイルスは2012年にサウジアラビアで初めて確認された新型のコロナウイルス(MERS-CoV)です。コロナウイルスは、一般的な風邪や重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となるウイルスの大きな仲間に属します。
 
Q:MERSはどこで発生しているのですか?
 
MERSの症例は次の国々で報告されています:ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イエメン(中東)、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、イギリス(ヨーロッパ)、チュニジア、エジプト(アフリカ)、マレーシア、フィリピン(アジア)、アメリカ合衆国(アメリカ)。
 
このウイルスはアラビア半島全域に広がっているようです。中東以外で報告されている最近の症例は、すべて中東で最初に感染しています。その後中東域外へ輸出されています。こうした旅行による症例は、帰国後国内で他の人に感染させてはいないようです。2013年にフランスとイギリスに輸出された症例では、ヒトからヒトへの感染は限定的でした。
 
症例に関する最新の情報は、「WHO疾患の集団発生に関するニュース」(英語)で見ることができます。
 
Q:MERSの症状はどのようなものですか?
 
MERSの典型的な症例では、発熱、咳、息切れなどの症状があります。検査では肺炎の所見がよく認められます。下痢などの胃腸の症状も報告されています。重症になると呼吸不全を引き起こすこともあり、人工呼吸器や集中治療室でのサポートが必要になることもあります。患者の中には臓器不全、特に腎不全、あるいは敗血症性ショックを起こした人もいます。MERSの患者のおよそ27%が死亡しています。ウイルスは免疫機構が弱まっている人、高齢者、糖尿病、がん、慢性肺疾患などの慢性疾患のある患者などで、より重症化するようです。
 
Q:MERSウイルスに感染しても症状が出ないことはありますか?
 
はい。感染しても症状が出ない人もいるようです。MERS感染者との接触に関する追跡調査で、MERSコロナウイルスの検査を受けたことにより、そうした人がいることが分かりました。
 
Q:どのようにしてMERSに感染するのですか?
 
ヒトがどのようにしてMERSコロナウイルスに感染するのか、まだ正確には分かっていません。いくつかの症例では、濃厚な接触により感染者から他の人にうつっているようです。これは家族、患者、医療従事者の間で見られています。最近では、医療に関係した感染の報告数が増えています。一部の地域社会では、症状は出ているが、潜在的な感染源が見当たらないところもあります。そうした人たちは、動物あるいは別な感染源もしくは感染者に暴露された可能性があります。
 
Q:MERSはヒトからヒトへ感染しますか?
 
はい、しかし限定的のようです。予防対策をせずに患者にケアを提供した場合など、濃厚な接触がない限り、ウイルスは容易にヒトからヒトへ伝染しないようです。ヒトからヒトへの感染がより効率的に発生すると見られる医療施設などで、特に感染予防や管理などの実施が不十分な場合に、集団で発生しています。これまでに、地域で持続的に感染が発生したという報告はありません。
 
Q:MERSウイルスの感染源は何ですか? コウモリ、ラクダ、家畜?
 
感染源に関する全体像はまだ明らかではありません。ヒト株に対応するMERSコロナウイルス株がエジプト、カタール、サウジアラビアで分離されています。そうした研究やその他の研究では、アフリカと中東全域でラクダにMERSコロナウイルス抗体を認めています。ヒトおよびラクダの遺伝子配列のデータにより、ラクダに認められたウイルスとヒトに認められたウイルスの間に濃厚なつながりが明らかにされています。他にも保菌者が存在する可能性もあります。しかし、ヤギ、ウシ、ヒツジ、水牛、豚、野鳥など、他の動物にもMERSコロナウイルスに対する抗体がないか検査が行われましたが、これまでにこれらの動物には認められていません。これらの研究を総合すると、ヒトにおける感染源はラクダであるという仮説が裏付けられます。
 
Q:ラクダあるいはラクダ製品との接触は避けるべきですか?
飼育場、市場、ラクダの品評会などへ行っても大丈夫ですか?

 
一般的な注意としては、飼育場、市場、家畜小屋、その他動物がいる所へ行ったら、動物に触れる前と触れた後に、通常の手洗いなどの一般的な衛生手段を実践し、病気の動物との接触は避けなければなりません。
 
動物の乳や肉を含む生または加熱が不十分な動物性食品を摂取することは、ヒトの疾患の原因となる様々な細菌に感染する高いリスクを伴います。加熱調理または低温殺菌により適切に処理された動物性食品は、摂取しても安全ですが、未調理の食品の混入による汚染を避けるため注意深く取り扱うことも必要です。ラクダ肉とラクダ乳は、低温殺菌、加熱調理、その他の熱処理をした後は、引き続き摂取できる栄養のある食品です。
 
MERSに関して理解が深まるまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERSコロナウイルスによる重症疾患のリスクは高いと考えられます。したがって、そうした人はラクダと接触したり、生のラクダ乳を飲んだり、ラクダの尿に接したり、適切に調理されていない肉を食べることは避けなければなりません。
 
ラクダの飼育場や食肉処理場で働く人は、動物に触った後こまめに手を洗うこと、可能であれば顔面の保護、保護服の着用、そして作業後はそれを脱いで毎日洗濯する、といった良好な個人衛生の習慣を保つべきです。作業者は汚れた服、靴、その他ラクダやラクダの排泄物と接触があった可能性のある物を、家族にさらすことも避けなければなりません。病気の動物は絶対に食肉用に解体処理されてはなりません。MERSコロナウイルスが陽性と確認された動物との直接接触は避けなければなりません。
 
Q:MERSコロナウイルスに対するワクチンはあるのですか?どのような治療なのですか?
 
現在、ワクチンも、特定の治療法もありません。治療は支持療法で患者の病態に基づきます。
 
Q:医療従事者はMERSコロナウイルスに感染するリスクはありますか?
 
はい。いくつかの国で、医療施設内で患者から医療従事者への感染を含む感染が起きています。症状やその他の臨床像が非特異的であることから、MERSコロナウイルスの患者を早期にあるいは検査をせずに確認することは必ずしも可能ではありません。そのため、医療従事者はすべての患者に対し、一貫して標準的予防対策を行うことが重要です。急性呼吸器感染の症状のある患者すべてに対し、医療を提供する場合には、標準的予防対策に飛沫予防対策も加えるべきです。MERSコロナウイルスの感染が疑われるまたは確認された症例に対しては、接触の予防対策および眼の保護も加えるべきです。エアロゾルを発生させる処置を行う場合には空気感染の予防対策を行うべきです。
 
Q:中東への旅行は安全ですか?WHOはこの新型ウイルスに関連して渡航制限または貿易制限を勧告していますか?
 
MERSコロナウイルスに関連して、渡航や貿易を制限すること、または入国時の検査を行うことを勧告していません。
 
Q:MERSの発生に対して、WHOはどのように対応していますか?
 
ウイルスとそれが原因となる疾患についてより深く理解するため、また流行への対応に関する優先事項や、治療戦略、臨床管理の方法を決定するため、WHOは臨床医や科学者と連携して科学的エビデンスを収集し共有しています。WHOは罹患した国々や国際的な技術パートナーやネットワークと共同で、状況に関する最新の情報の提供、国家当局とのリスク評価や共同調査、学会の招集、また暫定的監視の勧告、症例の検査、感染の予防とコントロール、臨床管理に関する保健当局および医療技術局のための指針や教育訓練の策定などを含む、グローバルな健康対応策の調整を行っています。
 
事務局長は、国際保健規則(2005)に従って緊急委員会を招集し、今回の出来事が「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」となるのかについて、また公衆の保健に対するどのような措置がとられるべきかについて、諮問しました。この委員会は新たな進展により必要となれば、再招集されます。
 
WHOは何を勧告しているのですか?
 
国に対して
WHOは全加盟国に対し、重症急性呼吸器感染(SARI)に対する監視を強化し、重症急性呼吸器感染または肺炎の通常とは違う形態の症例があれば、注意深く調べるよう勧めています。加盟国にはMERSコロナウイルスの感染の可能性の高い症例や確認された症例があれば、WHOに通知または立証するよう勧告します。また加盟国に対し、MERSに対する意識を高め、旅行者には下記の情報を提供するよう奨励します。
 
症例の確認と調査に関する情報は下記を参照して下さい
http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections
/MERS_CoV_investigation_guideline_Jul13.pdf?ua=1 (英語)

 
検体の扱いに関する手順については下記を参照して下さい:
http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections
/MERS_Lab_recos_16_Sept_2013.pdf?ua=1&ua=1(英語)

 
臨床管理に関するガイドラインは下記を参照して下さい:
http://who.int/csr/disease/coronavirus_infections/InterimGuidance_ClinicalManagement
_NovelCoronavirus_11Feb13u.pdf?ua=1 (英語)

 
医療従事者に対して
医療施設におけるMERSコロナウイルスの拡大を防ぐには、感染予防およびコントロールが極めて重要です。MERSコロナウイルスの感染が疑われるまたは確認された患者にケアを提供する医療施設は、感染患者から他の患者、医療従事者、来院者などへのウイルスの伝播のリスクを減らすための適切な措置を取る必要があります。医療従事者は感染予防とコントロールに関する技術について教育を受け、訓練を受け、更新を受けるべきです。
 
感染予防とコントロールのためのガイドライン
http://www.who.int/csr/bioriskreduction/infection_control/publication/en/ (英語)
 
http://who.int/csr/disease/coronavirus_infections/MERS_home_care.pdf?ua=1 (英語)
 
国、事業者、個人に対する旅行のアドバイス
旅行者および輸送業務従事者や地上スタッフなど旅行関係者の間でMERSコロナウイルス感染のリスクを軽減するため、また旅行者による病気の自己報告を増やすために下記のアドバイスを提供します
 

  • 中東への旅行者に対しては、重大な持病(例、糖尿病、慢性肺疾患、免疫不全)がある人は、旅行中にMERSコロナウイルス感染を含めて、罹患する可能性が増大することを助言する
  • 旅行に出発する人や旅行会社に対しては、一般的な旅行関連の健康に関する注意などの情報を伝え、そうした注意によりインフルエンザや旅行者下痢症などの病態を含めて一般的に感染のリスクを軽減できること伝える。特に強調すべき点は:石鹸と水で手をこまめに洗うこと(手が見た目に汚れていなければ、ハンドラブを使用してもよい)、加熱が不十分な食肉や不衛生な状態で調理された食物を避け、果物や野菜は食べる前によく洗うなど、食物の安全をしっかり守ること、個人の衛生状態を良好に保つこと
  • 中東への旅行者全員にたいしては、旅行および観光部門と協力し、戦略的な場所(例、旅行会社または空港の出発場所)に資料を置いて、健康関連の助言を入手できるようにする。航空機内や船舶内に健康関連の警告用チラシ、入国場所では垂れ幕やパンフレット、ラジオによるアナウンスなど、さまざまな種類の伝達方法を使用して旅行者に伝わるようにする。旅行関連の助言は、MERSコロナウイルスに関する現在の情報と、旅行中病気になるのを防ぐ方法などの案内が含まれるべきである。
  • 発熱と咳を伴う重い急性呼吸器疾患(日常生活に支障が出るほど重症)を発症した旅行者に対しては:他人との接触を最小限にして他人への感染を防ぐ、咳やくしゃみをするときは口と鼻をティシュで覆い、使ったティシュはくずかごに捨て、その後手を洗う、あるいはそれができなければ、咳やくしゃみは手の中ではなく、服の袖の上部で覆うようにして行い、医療スタッフにできるだけ早く報告する
  • 中東から帰国する旅行者に対しては、帰国後2週間以内に発熱と咳を伴う重症急性呼吸器疾患を発症したら、医療機関を受診し、すぐに地域の保健当局に報告するよう助言する
  • 発熱と咳を伴う重症急性呼吸器疾患(日常生活に支障が出るほど重症)のある旅行者と濃厚な接触があった人で、自分自身もそのような状態を発症した人に対しては、MERSコロナウイルスの監視を受けるために、地域の保健当局に報告するよう助言する
  • 事業者や医療施設に対しては、急性呼吸器疾患を発症して中東から帰国する旅行者、特に発熱と咳および肺実質の疾患(例、肺炎もしくは急性呼吸促迫症候群)のある人において、MERSコロナウイルス感染の可能性があることを警告する。臨床症状からMERSコロナウイルスの診断が示唆されれば、WHOによる症例の定義に則り、検査を行い、予防管理対策が実施されるべきである。臨床医に対しても、免疫不全の患者では非典型的症状を呈する可能性があることも警告すべきである。

 
国際保健規約の要件にある通り、輸送機関(航空機や船舶)の中および入国時点で発見された症状のある旅行者を日常的に評価する体制や、臨床評価や治療のために病院もしくは指定された施設へ安全に輸送するための体制が整っているようにする必要があります。症状のある旅行者が航空機に乗っている場合は、旅客の乗船位置表を利用することができます。旅客の接触情報を収集するのに役立ち、必要であれば追跡にも利用できます。
 
 
WHO website より引用掲載したものです。

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