日本旅行医学会

HBV

B型肝炎

Eyasu H. Teshale

病原体

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)によって引き起こされます。これはヘパドナウイルス科の小さな球状の不完全環状二本鎖DNAウイルスです。

感染経路

HBV感染は、血液、血液製剤、血液以外の体液(例えば精液など)との接触によって起こります。そのような行為の主なものは以下の通りです。

・コンドームを使用しない無防備な性的接触。
・注射針や注射用器具を共用した注射行為。
・HBVのスクリーニングが行われていない血液や血液製剤の輸血。
・医療、歯科、臨床検査現場で、ヒトの血液に直接触れる仕事。
・他人の血液で汚染された針などを用いた歯科処置、医療処置、入れ墨、ボディピアス。
・皮膚や粘膜の傷を通して汚染された可能性のある血液が入るケース。

発生地域

地図 3-09. B型肝炎流行地域(成人)

B型肝炎流行地域(成人)

地図は世界レベルでの慢性HBV感染症の有病率を示しています。米国旅行者中のHBV感染に関するリスクについては、これを算定するためのデータはありません。旅行中にB型肝炎に罹る旅行者の症例報告がまれに公表されています。海外旅行者の中ではHBV感染に関するリスクは低いものの、慢性HBV感染症の有病率が高い国ではHBV感染リスクは高いと考えられます。長期海外滞在者、宣教師、援助活動家については、HBV感染に関するリスクは高くなります。

臨床症状

HBVに初めて感染すると、成人と5歳以上の小児の30~50%にB型肝炎に特有の臨床症状がみられます。B型肝炎の潜伏期間は90日です(60~150日の幅で)。初期には倦怠感、疲労、食欲不振のような全身症状などが約1~2週間続き、黄疸が現れます。臨床症状の典型的なものには、悪心、嘔吐、腹痛、黄疸などがあります。時には、皮疹、関節痛、関節炎がみられることもあります。HBVに感染しても、5歳未満の小児や免疫不全状態にある成人の場合通常は無症候性となります。急性B型肝炎の致死率は約1%です。急性B型肝炎は、感染者の30~90%が乳幼児期に、5%未満が青年期や成人期に慢性HBV感染症に移行します。慢性B型肝炎になると、人生の後半に肝硬変や肝癌などになります。

診断

血清学的マーカーが1種類であるか他のマーカーと一緒であるかによって、HBV感染症のいろいろな病期が示唆されます(表 3-06)。通常それらの血清学的マーカーは、急性B型肝炎、回復期、慢性B型肝炎を判定するのに使われます。

B型肝炎ウイルス感染症の血清学的検査所見1

血清学的マーカー

HBsAg2 TOTAL ANTI-HBc IgM ANTI-HBc ANTI-HbsAG

検査所見

感染を認めない

急性初期、ワクチン接種後の一時期(18日以下)

急性B型肝炎

急性B型肝炎の回復時

感染の既往があるが回復 免疫獲得

慢性B型肝炎

擬陽性(可能性がある)、感染の既往、不顕性感染、3  HBsAg陽性の母親から生まれた乳児に対するHBc抗体の受動免疫

一連のワクチン接種後の抗体濃度が10 mIU/mL以上であれば免疫獲得、B型肝炎免疫グロブリン接種による受動免疫

略語:HBsAg、B型肝炎表面抗原;anti-HBc、B型肝炎コア抗原に対する抗体

1 From: CDC,A comprehensive immunization strategy to eliminate transmission of hepatitis B virus infection in the United States: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). Part II: immunization of adults. MMWR Recomm Rep. 2006 Dec 8;55(RR-16):1-33.

2 HBs抗原陽性の検査結果が擬陽性でないことを確認するためには、メーカーの添付文書で推奨されていれば、試料のHBs抗原に対する抗原抗体反応結果を許可された中和確認試験で検査しなければならない。

3 HBc抗体の検査結果のみが陽性である場合、大量のウイルスに直接経皮的に暴露する可能性がある例外的な状況を除き(例えば輸血、臓器移植など)、感染性肝炎である可能性は低い。

治療

急性B型肝炎の特効薬はありません。慢性B型肝炎の治療には、抗レトロウイルス薬の使用が許可されています。

旅行者に対する予防接種

ワクチン接種の適応

慢性B型肝炎の有病率が中程度や高い地域(B型肝炎表面抗原陽性率が2%以上)に旅行するワクチン未接種者すべてに対し、B型肝炎のワクチン接種を行うべきです。米国では、ヒトの血液に直接接する可能性がある医療分野で働く者すべてに、B型肝炎ワクチン接種が推奨されています。未接種の小児および青年期の人(19歳未満)はすべて、B型肝炎ワクチンの接種を受けるべきです。目的地にかかわらず、旅行中にHBV感染のおそれが生じる行為をする人すべて(例えば男性と性的交渉をする男性、静注薬物乱用者、性感染症患者またはこの6ヵ月間に複数の相手と性交渉を持った人)は、これまでワクチン接種を受けたことがなければB型肝炎ワクチンの接種を受けるべきです。HBV感染を予防しようとする成人は誰でもワクチン接種を受けるべきです。

ワクチンの接種

B型肝炎ワクチンは通常、0、1、6ヵ月後の接種スケジュールで3回連続接種します。2回目は初回接種の1ヵ月後に、3回目は2回目から2ヵ月以上で初回接種から4ヵ月以上間をおいて接種しなければなりません。また、B型肝炎ワクチンEngerix-Bは、4回の接種スケジュールで0、1、2、12ヵ月後に接種することが許可されています。他には、Recombivax HBの2回接種スケジュールが、小児と11~15歳の青年期の人に対し許可されています。この2回接種スケジュールでは、2回目は初回接種の4~6ヵ月後に接種します。一つのブランドのワクチンで開始した3回連続接種を、別のブランドのワクチンで終了することもあります。TwinrixはA型肝炎とB型肝炎の混合ワクチンで、18歳以上の人に使用が許可されています。基礎免疫スケジュールは3回の接種から成り、0、1、6ヵ月後に接種します。

通常と異なる接種スケジュール

理想としては、ワクチン接種は旅行の6カ月前に開始し、一連のワクチンすべてを出発前に接種し終えるようにすべきです。1回または2回の接種で予防効果が得られるものもあるため、出発前に接種を終了させることができなくても、必要であれば一連のワクチン接種を開始すべきです。しかし、最も高い予防効果は、最終のワクチン接種を受けてからでないと得られません。食品医薬品局は最近、地域的流行がみられる地域に旅行するいつ感染するかわからない旅行者や災害指定地域に緊急に赴く人たちに対し、期間短縮接種スケジュールの使用を許可しました。Twinrix(A型肝炎とB型肝炎の混合ワクチン)のワクチン接種期間短縮スケジュールも使用することができます(0、7日後、21~30日後に接種)。この接種スケジュールでは、12ヵ月後に追加接種を行い、長期免疫を獲得しなければなりません。免疫状態の正常な小児や成人が推奨されている一連のワクチンの接種を受けた場合、旅行前の追加接種は推奨されていません(第7章 Vaccine Recommendations for Infants and Childrenを参照)。ワクチン接種を完了したほとんどの人にいついては、抗体濃度を算定するための血清学的検査は必要ありません。

ワクチンの安全性と副作用

B型肝炎ワクチンは、あらゆる年代の人にとって安全であることが示されています。注射部位の痛み(3~29%)と37.7℃(99.9°F)を超える体温の上昇(1~6%)が、ワクチン接種を受けた人の中で最も頻繁に報告されている副作用です。これらのワクチンを、イーストをはじめとするワクチンの成分に対して過敏症の既往歴がある人に接種すべきではありません。ワクチンの成分には非感染性の組換えタンパク(B型肝炎表面抗原)が含まれています。

B型肝炎ワクチンを妊婦に接種した場合、発育中の胎児に現れる有害事象のはっきりしたリスクはないことを示すデータはわずかです。妊婦がHBVに感染すると、出産後に母親が重篤な症状を引き起こしたり、新生児がB型慢性肝炎を発症したりすることがあります。妊婦と授乳婦のどちらもワクチンの接種は禁忌ではないと考えるべきです。

旅行者が行うべき予防措置

すべての旅行者には旅行前の指導の一環として血液、汚染のある医療器具、静注薬物乱用、無防備な性的行為などを介して感染するB型肝炎ウイルスなどの血液感染性病原体によるリスクに関する情報や、HBV感染を予防するためのワクチン接種などの予防措置についての情報を提供しなければなりません。医療や歯科医療を受ける旅行者は、十分に滅菌や消毒がされていない医療・外科・歯科・入れ墨・ピアス・穴あけ器具の使用、汚染された器具の再使用、危険な静注(例えば使い捨て注射針や注射器の再利用など)に注意しなければなりません。HBVなどの血液感染性病原体の感染は、用具が滅菌されていなかったり、入れ墨師や穴あけを行う人が適切な感染予防手順に従っていない場合に起こります。旅行者は、十分な滅菌や消毒処置を求めることができないまたは行われていない地域で入れ墨やボディピアスを受けようとする際は、感染リスクを考慮しなければなりません。

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