日本旅行医学会

コレラ

コレラ

Kashmira Date, Eric Mintz

病原体

コレラとは、毒素産生性のコレラ菌によって起こる激しい下痢を伴う急性の腸管感染症です。毒素非産生性のO1血清群およびO139血清群の株をはじめとしたコレラ菌の他の多くの血清群は、コレラ毒素遺伝子の有無にかかわらずコレラ様疾患を引き起こします。広範囲に及ぶ流行を引き起こしてきたのは毒素産生性の血清群O1およびO139の株のみで、これらは「コレラ」としてWHO(世界保健機関)に報告する義務があります。

コレラ菌O1には古典型とエルトール型の2つの生物型があり、それぞれに稲葉・小川の明確な血清型があります。それらの感染症状は見分けがつきにくいものの、エルトール型感染者のほうが症状がないことが多く、あっても軽度の症状しかみられません。近年、コレラ菌O1の古典型感染症はめったにみられなくなり、バングラディシュとインドの一部に限られています。

感染経路

毒素産生性のコレラ菌O1およびO139は、淡水や汽水中でみられる自由生活型の細菌性生物で、カイアシ類などの動物性プランクトン、甲殻類、水生植物の生息地でよくみられます。コレラ感染は通常、自然環境で生息するコレラ菌や感染者の糞便に排出されたコレラ菌が混入した水を飲むことで起こります。他の媒介物には、汚染された魚介類や農産物、きちんと再加熱されなかった食べ残しの調理済み穀物などがあります。ヒトからヒトに感染したという記録は、たとえ流行期の医療従事者であってもこれまでほとんどありません。

発生地域

1961年以来、エルトール生物型の血清群O1コレラ菌によるコレラの第7次世界大流行が拡大しています。この大流行はインドネシアに端を発し、アジアのほぼ全域から東欧およびアフリカ、北アフリカからイベリア半島にまで及んでいます。1991年には広範囲な流行がペルーで始まり、西半球の近隣諸国に広がりました。南アメリカや中央アメリカでのコレラの症例はわずかですが、O1コレラ菌の流行はアフリカ並びに南アジアおよび東南アジアの大部分で依然みられます。O139コレラ菌は1990年代初期にアジアで急速に広がりましたが、その後バングラディシュとインドのいくつかの地域に限局しています。

2009年には、221,226例のコレラ症例とコレラによる4,946例の死亡例が45の国からWHO報告されました(症例致命率2.24%)。資源の少ない地域での症例が最も多く、コレラ症例の98%と死亡例の99%がアフリカから報告されました。コレラは爆発的な流行を呈することがあります。それは、10万に近い症例と4,000を超える死亡例が報告された2008年と2009年のジンバブエでの大発生からも分かります。つい最近では、ハイチの首都Port-au-Princeと周辺地域に壊滅的な被害をもたらした大地震から数ヵ月の間の2010年10月に、コレラの大発生がハイチで確認されました。2010年11月上旬現在、ほぼ17,000の入院例と1,000を超える死亡例の報告がありました。ハイチでは安全な水道設備が十分でない上に地震による破壊が重なり、ハイチにおけるコレラ症例や死亡例の数は増え続けると思われ、他のカリブ海諸国や米国では旅行関連の感染例も考えられます。

1999年から2008年までに、米国で確認された60例のコレラ症例は国外感染によるものでした。旅行者向けの通常の旅行プランに従い、安全な食べ物や水に関する忠告や衛生上の注意を守る旅行者は、コレラの報告がある国でも感染のリスクは全くありません。感染のリスクが高くなるのは、コレラの流行地や発生地で、未処理の水を飲む、適切な衛生上の忠告に従わない、十分に加熱調理されていなかったり、生の食品、特にシーフードなどを食べる旅行者です。

ごく最近の1992年、ラテンアメリカでのコレラの流行期に、2例のコレラ症例の報告がありましたが、原因はアルゼンチンからロサンゼルスまでの国際便での機内食でした。このためCDCは国際航空運送協会に、経口補水液を国際便に備え、コレラが流行している都市で揃えた食品は出すべきでないと勧告しました。その後、コレラ症例にかかわる航空便はみられなくなりました。

臨床症状

コレラに感染してもほとんどの場合無症状で、あっても軽度の胃腸炎です。しかし重症の場合は、「米とぎ汁様便」と形容される大量の水様性下痢が突然始まり、多くの場合嘔吐を伴い、体液量が減少するのが特徴です。コレラの徴候や症状には、頻脈、皮膚の弾力の消失、粘膜の乾燥、低血圧、渇きなどがあります。結果として生じる電解質平衡異常に続いて、筋れん縮をはじめとする症状がさらに起こります。治療されない場合、体液量の減少で急速に血液量減少性ショックが起こり死亡します。

診断

コレラの診断は、糞便検体や直腸のスワブ検体を培養することで確定されます。検体はCary-Blair培地を用いて運搬することが望ましく、選択的thiosulfate-citrate-bile salts (TCBS)寒天培地が分離・同定に最適です。血清型コレラ菌分離用試薬は、すべての州保健局ラボラトリーで入手できます。市販の迅速試験キットでは、抗菌感受性試験やサブタイピングのための分離菌を得ることができないため、通常の診断に用いるべきではありません。分離菌はすべて州保健局ラボラトリーを介してCDCに送り、コレラ毒素試験やサブタイピングを行わなければなりません。コレラは国に報告義務のある疾患です。

治療

治療の基本は補液です。経口補水薬をタイムリーに必要な量投与し、必要であれば静脈内輸液を行えば、症例致命率は1%をはるかに下回るまで低下します。抗生物質投与によって、必要輸液量が減少し、疾患期間は短縮します。抗菌療法は重症の場合に適応となり、テトラサイクリン(tetracycline)、ドキシサイクリン(doxycycline)、フラゾリドン(furazolidone)、エリスロマイシン(erythromycin)、またはシプロフロキサシン(ciprofloxacin)を投与することができます。できれば抗菌物質感受性試験を行い、治療薬選択に関する情報を得るべきです。

旅行者が行うべき予防

安全な食べ物と水に注意を払い頻回に手を洗うことは、コレラの予防に欠かせません(第2章参照 食べ物と水に対する注意事項)。化学予防法の適応とはなりません。

米国ではコレラワクチンは接種できません。米国外では2種類の経口ワクチンが接種可能です。それらはDukoral(Crucell社、オランダ)およびShanchol(Shantha Biotechnics社、インド)/mORCVAX(Vabiotech社、ベトナム)です。ShancholとmORCVAXは異なるメーカーが製造する同種ワクチンです。これらは安全と思われるワクチンで、承認されている非経口ワクチンに比べ十分な免疫を得ることができ、また有害作用もほとんどありません。しかしCDCは、米国旅行者がコレラに罹患するリスクは低く、またこれらのワクチンで得られる免疫は不十分であるとして、ほとんどの旅行者にこれらを推奨していません。入国の条件として、コレラの予防接種を義務付けているところは世界にありません。

Dukoralに関する情報はCrucell社から入手できます(www.crucell.com)(http://www.crucell.com) (http://www.cdc.gov/Other/disclaimer.html) 。

Shancholに関する情報はShantha Biotechnics社から入手できます(www.shanthabiotech.com (http://www.shanthabiotech.com)

(http://www.cdc.gov/Other/disclaimer.html) 516-859-3010[米国], 91-40-23234136[インド], info@shanthabiotech.co.in)。mORCVAXに関する情報はVaviotech社から入手できます(www.vabiotechvn.com/english )(http://www.vabiotechvn.com/englsh)

(http://www.cdc.gov/Other/disclaimer.html) ,84-4-9717710[ベトナム])。


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