日本旅行医学会

HAV

A型肝炎

Umid M. Sharapov, Eyasu H. Teshale

病原体

A型肝炎ウィルス (HAV) はピコルナウィルス科に分類されるRNAウィルスです。

感染経路

A型肝炎感染は、①ヒトからヒトへの直接接触、②汚染された水や氷、または汚染された水域から捕獲した貝類、③汚染された果物や野菜などを生で食べることで起ります。A型肝炎ウイルスは感染者の糞便中に排泄されます。このウィルスの量は発症の1~2週間前にピークに達し、肝機能障害や症状が現れた後急速に減少します。この減少はHAVに対する循環抗体の出現と同時に起こります。乳児や小児では、ウィルスの排泄は感染後最大で6ヵ月間続きます。

発生地域

感染が幼児期に起り、無症候性または軽症であることが発展途上地域全域でよく見られます。これらの地域では、多くの成人がA型肝炎に対して抗体を有しており、A型肝炎の流行はまれです。先進国での感染は少ないですが、地域流行の可能性はあります。A型肝炎は、ワクチンで予防可能な旅行中に感染する感染症のひとつです。米国で最も頻繁に報告されているA型肝炎の危険因子は海外旅行です。感染リスクが最も高まるのは、農村地域での居住や農村地域への旅行、辺境地でのトレッキング、衛生状態が悪い環境での飲食です。しかし、旅行に関連したA型肝炎の症例は、一般ツアーでの宿泊と摂食行動をとる発展途上国への旅行者にもみられます。

臨床症状

A型肝炎の潜伏期間は平均して28日です(15~50日の範囲で)。HAV感染症は無症候性であったり、1~2週間続く軽度の症状から数ヵ月続く重度のものまでその臨床症状の重症度はさまざまです。A型肝炎では多くの場合、発熱、倦怠感、食欲不振、悪心、腹部の不快感に続いて2~3日以内に黄疸が現れるなどの臨床症状がみられます。症状が現れるかどうかは、感染者の年齢に関連しています。6歳未満の小児では、ほとんどが(70%)無症候性で、症状が現れた場合の症状の持続期間は通常2ヵ月未満です。感染者の10%に、6~9ヵ月間を超える症状の持続や再発がみられます。全体的な症例致命率は0.3%ですが、50歳を超える成人では1.8%となります。

診断

急性症状があるまたは最近症状がある患者の血清中にIgM抗体が認められれば、診断は確定します。IgM抗体は、感染の5~10日後に検出されるようになります。ペア血清中の特定の抗体が4倍以上に上昇する場合も(市販のEIAで検出される)、診断は確定します。臨床検査が行えない場合、発生が疫学調査で認められれば臨床的に矛盾しない症例で診断が裏付けられます。HAV RNAは、核酸増幅検査によって急性期のほとんどの患者の血液や糞便中から検出されますが、この検査法は通常は診断目的で使われることはありません。

治療

対症療法のみになります。

予防措置

ワクチンまたは免疫グロブリン

単価ワクチン

米国ではA型肝炎の2つの単価ワクチンが、12ヵ月以上の人を対象に使用が認可されています(表 3-02, 3-03)。これらのワクチンは両方とも不活化HAVワクチンで、水酸化アルミニウムアジュバントを含みます。ワクチンは相次いで2回接種しますが、2回目のワクチンは最初の接種から6~12ヵ月後(Havrix)または6~18ヵ月後(Vaqta)に接種します。A型肝炎のワクチンはすべて、三角筋に筋肉内接種しなければなりません。

混合ワクチン

A型肝炎とB型肝炎の混合ワクチンが、18歳以上の人を対象に使用が認可されています(表3-04)。基礎免疫の接種スケジュールは0、1ヵ月、6ヵ月経過後の3回の接種から成り、B型肝炎の単価ワクチンについても同じ接種スケジュールが一般に使われています。旅行者に対し、期間短縮の接種スケジュール(0、7日目、21~30日目に接種)が食品医薬品局によって認められていますが、追加接種を12ヵ月後に行い、長期の免疫を得られるようにするべきです。混合ワクチンは、アジュバントとしてリン酸アルミニウムや水酸化アルミニウムを含みます。混合ワクチンの免疫原性は肝炎の単価ワクチンの免疫原性と同等であることが、認可された接種スケジュール終了後の試験で認められています。

肝炎ワクチン接種の適応

感染しやすい人は、A型肝炎の地域的流行度が高いまたは中程度の国に何らかの目的で、頻繁にまたは継続して旅行する場合には、出発前に予防接種または免疫グロブリン(IG)の接種を受けるべきです。また医療機関も、どんな目的地への旅行者に対してもワクチンの接種を考慮します。地域的流行度が高いまたは中程度の国への旅行の予定があれば、すぐにワクチンを接種すべきです。
米国では、国際養子縁組で旅行する人は、次の人たちにはA肝炎ワクチンの接種が推奨されていることを知らされなければなりません。それらは、これまでワクチンを接種したことのない家族のメンバーすべてと、地域的流行度が高いまたは中程度の国から来る国際養子と到着後の最初の60日間に密接な個人的接触(例えば本職のベビーシッターなど)が予想される人たちです。A型ワクチンの初回接種は、養子縁組が計画されるとすぐ、理想としては養子到着の2週間以上前に行わなければなりなせん(第7章 国際養子縁組を参照)。

ワクチン

A型肝炎単価ワクチンを出発前であればいつでも1回接種すれば、40歳以下の健康な人のほとんどは十分な予防効果を得ることができます。IGを接種するよりA型肝炎ワクチンを年齢に応じて接種することのほうが望まれます。長期予防のための許可された接種スケジュールに従い、一連のワクチンの接種を終了させなければなりません。多くの人は、ワクチンの初回接種から2週間までに単価ワクチンの接種でHAV抗体が検出されるようになります。2週間で抗体反応が検出される人の割合は、ワクチンの接種量が少ない例えば混合ワクチンなどを接種する場合には低くなります。
40歳を超える成人、免疫不全患者、慢性肝疾患などの慢性疾患患者が2週間しないで出発する予定であれば、最も高い予防効果を得るためには、ワクチンの初回接種を異なる部位でのIG(0.02 mL/kg)の接種と一緒に受けなければなりません。地域的流行地への旅行の2週間前までにA型肝炎ワクチンを受け、IGの接種は受けない(自ら進んでか利用できないため)旅行者は、A型肝炎ワクチンやIGの接種を受けない旅行者に比べて感染のリスクは低くなります。
免疫のある旅行者へのワクチン接種は禁忌ではなく、また副作用のリスクが高くなることはありませんが、旅行前のA型肝炎抗体のスクリーニングは、感受性を判断したり不必要なワクチンやIG製剤の接種を除外するための状況で役に立つことがよくあります。スクリーニング費用(検査や外来診療)がワクチンやIG接種費用より安ければ、また、検査でワクチン接種が遅れたり旅行前のワクチンやIGのタイムリーな接種が妨げられたりするのでなければ、地域的流行度が中程度や高いところで生まれた40歳を超える旅行者で前にHAVに感染した可能性がある旅行者には、このような感受性に対する血清学的スクリーニングは適応となります。接種後の血清反応検査は必要ありません。
12ヵ月未満でワクチン成分にアレルギーのある旅行者や、それ以外にワクチン接種を選択しない旅行者は、IG(0.02 mL/kg)の単回接種を受けるべきで、それによって最高3ヵ月間HAV感染予防の有効な効果が得られます(表 3-05)。ワクチン接種をしないで3ヵ月を超える期間旅行する計画がある場合は0.06 mL/kgのIG接種を受けるべきで、旅行が5ヵ月を超えて続く場合は再接種しなければなりません。その他に臨床家は、旅行者の最近の医学的検査でA型肝炎ワクチンは現在推奨されていない地域への旅行が認められる場合も含め、旅行計画に地域的流行度が高いまたは中程度の地域への旅行が含まれる旅行者すべてに対し最もよい時期に接種するよう注意を払うべきです。

その他の注意

許可された接種スケジュールに従ってワクチンを接種することが望まれます。しかし、一連の接種を中断した場合、それを再開する必要はありません。ワクチンの免疫原性が類似していれば、一つのブランド名の単価ワクチンで始めた一連の接種を、他のブランド名のワクチンで終了することもあります。一連のワクチンを接種し終えた成人や小児では、HAV抗体は接種後5~12年以上の間持続します。一連のワクチン接種が終了した後も、HAV抗体は20年以上の間持続する可能性があることが数学的手法を用いた研究結果で示されています。基礎免疫の接種スケジュールを終了する小児や成人に対しては、ワクチンの追加接種は推奨されていません。

ワクチンの安全性と副作用

成人では、最も多く報告されている副作用は、ワクチン接種の3~5日後にみられる注射部位の圧痛や痛み(53~56%)、頭痛(14~16%)です。小児については、報告された最も一般的な副作用は、注射部位の痛みや圧痛(15~19%)、栄養問題(一つの研究で8%)、頭痛(一つの研究で4%)です。明らかにワクチンに起因するとみられる小児や成人における重篤な有害事象は認められておらず、またワクチン接種者における基礎値と比較した重篤な有害事象の増加も認められていません。
米国で調合された筋肉内接種のIG製剤の副作用はわずかで(主に注射部位の痛み)、感染因子(B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、HIV)を感染さすことは認められていません。1994年12月以後、米国で市販されるすべてのIG製剤は発売前にウィルス不活化処置を受け、検査でC型肝炎RNAウイルスへの陰性反応が出るものでなければなりません。

使用上の注意と禁忌

ワクチンの成分に対し過敏症の既往歴のある旅行者にこれらのワクチンを接種してはいけません。イーストに対し過敏症の既往歴のある場合、Ywinrixは投与してはいけません。A型肝炎ワクチンは不活化ワクチン、B型肝炎ワクチンは組換えタンパクワクチンであるため、免疫不全状態の旅行者へのワクチン接種に特別な使用上の注意は必要ありません。

妊婦

妊婦に対するA型肝炎ワクチンの安全性は確認されていません。しかし、A型肝炎ワクチンは不活化HAVワクチンであるため、妊婦か発育している胎児に対する理論上のリスクは低いと考えられます。HAV感染のおそれが高い女性旅行者については、ワクチン接種のリスクとA型肝炎のリスクを比較検討しなければなりません。妊婦にIGを接種することは禁止されていません。

自分で行う予防措置

食品や飲料品を85℃(185°F)で1分間以上沸騰させたり加熱調理すればHAVは不活性化します。この温度で1分間以上加熱した食品や飲料品は、加熱後汚染されなければHAV感染の媒介物となることはありません。米国で推奨されているように、水に適切な塩素処理を行うとHAVは不活性化します。旅行者は、第2章Food and Water Precautionsで推奨されていることだけでなく、これらの推奨にも従うべきです。

使用を許可されたHavrix1の用法
対象年齢(年) 1~18 >=19
用量 (ELU)2 720 1,440
容量 0.5 mL 1.0 mL
接種回数 2 2
接種スケジュール(月) 0, 6~12 0, 6~12
1 A型肝炎ワクチン、不活化ワクチン、GlaxoSmithKline社
2 ELU, ELISAはA型肝炎不活性化ウィルスの単位

使用を許可されたVaqta1の用法
対象年齢(年) 1~18 >=19
用量 (U)2 25 50
容量 0.5 mL 1.0 mL
接種回数 2 2
接種スケジュール(月) 0, 6~18 0, 6~18
1 A型肝炎ワクチン、不活化ワクチン、Merk&Co.,Inc.社
2 Uは A型肝炎ウィルス抗体の単位

使用を許可されたTwinrix1の用法
対象年齢(年) >=18(基礎免疫の接種スケジュール) >=18(期間短縮スケジュール)
容量2 1.0 mL 1.0 mL
接種回数 3 4
接種スケジュール 0, 1ヵ月, 6ヵ月後 0, 7日後, 21~30日後+12ヵ月後
1 A型肝炎とB型肝炎の混合ワクチン、GlaxoSmithKline社
2 それぞれ1回接種分1.0 mL中に、A型肝炎不活性化ウィルス720 ELISA単位とB型肝炎表面抗原20 μgを含有

免疫グロブリン(IG)の推奨用量
接種時期 感染前 感染後
予防効果 短期(1~2月)長期(3~5月)Not applicable
用量(mL/kg)1 0.02 0.062 0.02
1 三角筋あるいは殿筋への筋肉内接種とする。12ヵ月未満の場合、大腿前外側部に筋肉内接種することがあり得る。
2 A型肝炎ウィルス感染の可能性が続く場合、5ヵ月ごとに接種を繰り返す。



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