日本旅行医学会

マラリア

マラリア

Paul M. Arguin, Kathrine R. Tan

病原体

人にマラリアの疾患を起こす病原体にはPlasmodium属に属する4種の原虫, 1)熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum), 2)三日熱マラリア原虫(P. vivax), 3)卵形マラリア原虫(P. ovale), 4)四日熱マラリア原虫(P. malariae)があります。それに加えて、旧世界(地球の東半球)に生息するサルに寄生する5)サルマラリア原虫(P. knowlesi)がヒトへの感染の原因となることが報告されており、東南アジアでの死亡例もあります。

伝染経路

マラリア原虫はすべての種で感染した雌のハマダラカに刺されることによって伝染します。また、輸血、臓器移植、注射針の共用、胎内感染による感染例も稀にみられます。

発生地域

マラリアは公衆衛生に関わる世界的な重要問題であり、毎年3億5000万人から5億人の患者が発生し、約100万人の死者が出ています。特定の諸国でのマラリア感染に関する情報は、世界保健機構(WHO)などのさまざまな情報源から得られています(Chapter 3のYellow Fever and Malaria Information、 by Countryの項を参照)。本文書で説明している内容については、掲載時点での正確さを期していますが、(地域の気象条件、媒介蚊の生息密度、感染有病率などの)感染要因が急激に変化したり年ごとに異なることもあり、地域のマラリア伝染パターンに著しい影響が出ることがあります。最新の情報については米国疾病対策予防センター(CDC)のウェブサイト www.cdc.gov/malariaで確認できます。”malaria map application”のようなウェブアプリケーションを用いれば、一般には知名度低い目的地を地図上で探し、その土地でマラリア感染が起きているかどうかを判断することができます(www.cdc.gov/malaria/map)。

マラリア感染地域は、アフリカ、中南米、カリブ海地域の一部、アジア(南アジア、東南アジア、中東を含む)、東欧、南太平洋の広大な地域に及んでいます(地図Maps 3-09および3-10を参照)。

地図 3-09. マラリア流行地域(西半球)

地図 3-09. マラリア流行地域(西半球)

 

地図 3-10. マラリア流行地域(東半球)

地図 3-10. マラリア流行地域(東半球)

マラリア感染のリスクは、同一国内であっても地域によって、また旅行者によっても大きく異なります。感染リスクは、訪れる地域での感染の強さ、および旅行の行程、日数、時期、タイプによって変わります。1999年から2008年までの期間に、CDCには米国居住者が旅行によってマラリアに感染した例が8,117件報告されています。そのうち5,372件(66%)はサハラ以南のアフリカ、1,170件(14%)はアジア、940件(12%)はカリブ海諸国と中南米、220件(3%)はオセアニア、60件(1%)は北米(すべてメキシコ)で感染したものです。この期間中に、マラリア感染による米国居住者の死亡例は43件あり、35件(81%)は熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)の感染によるもので、うち32件(91%)の感染はサハラ以南のアフリカで起きたものでした。

感染例の絶対数は、当該地域への旅行量との関連において検討しなければなりません。旅行者の相対感染リスクが最も高いと推定される地域は、西アフリカとオセアニアです。他のアフリカ地域、南アジア、東南アジアでは、旅行者には中等度の相対感染リスクがあると推定されます。中米、他のアジア地域では感染の相対リスクは低いものと推定されます。

症状

マラリアは、発熱、および悪寒、頭痛、筋肉痛、倦怠感などのインフルエンザ様の症状を特徴とします。こうした症状は周期的に現れます。合併症がないマラリアでは貧血、黄疸の症状がみられます。重症型マラリアの場合は、痙攣、精神錯乱、腎不全、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、昏睡などの症状があり、死亡することもあります。マラリアの症状は、流行地域で初めてウイルスに曝露してから、早ければ7日後(通常は14日後)に現れ、遅い場合はその地域を離れて数ヶ月以上経ってから現れることがあります。マラリア感染が疑われる場合あるいはマラリアの診断が確定した場合、特にそれが熱帯熱マラリア原虫による場合、それは医学的に急を要する事態といえます。病状悪化が急速に進み予測がつかないこともあり、医学的措置を緊急に必要とします。

診断

マラリアを疑う症状がある旅行者は、速やかに正しい診断を受けることです。担当医は、患者がマラリア流行地から最近帰国ばかりで熱病を発症しているときには、マラリアを疑うべきです。マラリア診断のゴールドスタンダードの地位は依然として血液塗抹標本の顕微鏡検査です。顕微鏡検査ではマラリア原虫の種類の特定と血中原虫数の測定もできます。両者ともに、最適な治療を行うための必要な指標となります。顕微鏡検査の結果は2~3時間以内に出す必要があります。こうした検査を病院外の検査施設に依頼したり、検査をまとめて一度に行い数日後に結果を知らせるというようなことは診断が遅れ、患者の命にかかわります。

マラリア原虫の抗原を検出するさまざまな検査キットが市販されています。こうした免疫学的(イムノクロマトグラフィー法)検査では、そのほとんどが試験紙またはカセットを用いるもので、2~15分で結果が得られます。こうした迅速診断検査は、顕微鏡検査ができる状況にない場合には、有用な検査です。迅速診断検査ではマラリア原虫を数分で検出することはできますが、原虫種の特定や血中原虫数の測定はできません。そのうえこの検査結果が陽性であれ陰性であれ、顕微鏡検査によって必ずその診断を確認しなければなりません。米国食品医薬局(FDA)では、米国内の病院や民間の検査施設で使用するための検査キットを1種類認可していますが、これを個々の医師や患者自身が使用することを公式には認めていません。この検査キットはBinaxNOW Malaria testという商品名で、メイン州ScarboroughのInverness Medical Professional Diagnostics社によって製造されています。

マラリア原虫の検出にPCR検査法を使用することができますが、FDAにより認可されたものはありません。この検査法はルーチンの顕微鏡検査よりもわずかに優れた感度を示していますが、検査結果が出るまでの時間が顕微鏡検査に比べて長くかかり、急を要する診断の場合には用途が限られます。PCR検査の最大の有用性はマラリア原虫種の確定と複数の原虫種による混合感染の診断にあります。CDCの malaria laboratoryではPCR法による原虫種の確定診断を行っています。

サハラ以南アフリカでは、臨床診断でマラリアが過剰に診断される場合が多く、検査では偽陽性になる割合が高いことが考えられます。この地域へ旅行する人は、確実な効果がある抗マラリア薬を服用している場合でさえ、マラリアと誤診される場合があることに注意する必要があります。このような場合、急病を発病した旅行者は現地で求めうる最良の医療サービスを受けるようにして、その治療指示に従うことです(ただしハロファントリンの服用は後述の理由で不可)。その場合、抗マラリア薬は服用は継続してください。

治療

マラリアは早期に治療すれば問題ありませんが、適切な治療が遅れると重症化して、死亡する可能性があります。旅行中にマラリアの症状が出た場合は、できるだけ速く診断を受けることです。マラリアの特異的な治療選択肢は、マラリア原虫種、(感染地域に基づく)薬剤耐性の可能性、患者の年齢、妊娠の有無、感染の重症度によって決まります。

CDCが公表しているマラリア治療に関する詳細な勧告についてはウェブサイトwww.cdc.gov/malaria/diagnosis_treatment/treatment.htmlにあります。医師で、マラリアの診断や治療についての支援が必要な場合は、米国東部時間午前9時から午後5時までの時間にCDCマラリアホットライン(770-488-7788または通話料無料の1-855-856-4713)に電話をして下さい。時間外、週末、休日に支援が必要な場合は、CDC Emergency Operations Center(770-488-7100)に電話して、オペレータにマラリア担当部署の当直相談員を呼び出してもらうようにします。そのうえ、旅行医学や熱帯病の専門医、あるいは感染症医の助言を求めるようにします。

ハロファントリンのような米国でマラリア治療用に用いられていない薬剤が海外では広く入手可能となっています。CDCではハロファントリンをマラリア治療の適応薬とはしていません。それは投薬後に死亡を含む心臓への副作用が生じた例が報告されているためです。この副作用は心臓の既往症の有無に関わらず、また(メフロキンなどの)他の抗マラリア薬との併用の有無に関わりなく起きています。

旅行者が、抗マラリア薬の予防投与の指示に従わない場合、(クロロキン耐性の熱帯熱マラリアの流行地域でのクロロキンの使用など)効力が不十分なマラリア治療レジメンのほうを選択する場合、あるいは医学的な理由で最適レジメンを避けざるをえない場合には、国外でマラリアに感染するリスが高くなり、感染した場合の治療を速やかに行わなければならなくなります。そして、効果的な薬剤の予防服用はするにしても、旅行先がへんぴな場所である場合には、旅行医療機関と相談のうえ、認可されているマラリア治療レジメンを全コース分処方してもらい薬剤を携行するようにすることもできます。マラリアと診断された場合には、直ちにそのレジメンを開始でき、しかも旅行前に薬剤を確保しているため、現地でニセ医薬品を飲まされたり薬剤が入手できないということはありません。まれに適切な医療サービスが受けられず、しかも旅行者がマラリアとみられる熱病を発症した場合には、マラリアに罹ったとものとみなし、携行した薬剤を服用することができます。マラリアに罹ったと思われる場合に行うこのような自己治療は、あくまで間に合わせの措置に過ぎず、早急な診断が不可欠になります。

マラリア治療として勧告されている治療レジメンにはアトバコン/プログアニル合剤およびアルテムエーテル/ルメファントリン合剤の2種類があります。マラリア予防薬として服用した薬剤やその類似薬は治療薬としては不適切です。例えば、アトバコン/プログアニル合剤を予防薬として服用していない旅行者には、この薬剤を治療薬として用いることができます。勧告用量については表3-09を参照してください(更新日時:2011年7月1日)。

旅行者のための予防対策

マラリア予防法は防蚊対策と化学療法の組み合わせになります。ここで勧告する予防手段は有効ではあっても、100%の効果があるというものではありません。CDCが旅行者のためにマラリア予防勧告案を作成した経緯については囲み3-01を参照してください。

マラリアの予防では、感染のリスクがあるすべての人に適切な対策を取らせる必要性と、まれではあるが必要以上の対策を講じるあまりに生じる副作用をいかに防ぐのかという、相反する要求の折り合いをつけることが必要となります。個々の旅行者についてリスク評価は、旅行先の国だけではなく、都市名を記した詳細な旅行日程、宿泊施設のタイプ、旅行時期、旅行のタイプに基づく必要があります。さらに、妊娠の有無などの個人の状態や旅行先での薬剤耐性の状況などによってリスク評価も変わってきます。

リスクの程度に応じて、特に予防措置を取らない、防蚊対策のみおこなう、防蚊対策に加えて化学療法薬の服用するなどの措置を勧告するのが望ましいといえます。西アフリカのようなマラリアの流行が激しい地域では、短期間曝されただけでも感染することがあります。このためこの地域へ旅行する人は高い感染リスクがあるものと思わなければなりません。マラリア感染はすべての国で一様に分布しているわけではありません。ある旅行先で発生しているマラリア感染がその国全体に起きていることもあれば、流行がある一定の地域に限られる場合もあります。旅行の目的地でマラリアの流行度が高くしかも流行の最盛期に当たっている場合には、その国全体としては流行度が低くても、現地に滞在する間に感染するリスクは非常に高いとみて間違いありません。

地理的要因は旅行者の感染リスクを左右する要素の一つです。感染リスクは、旅行者の行動と状況が異なれば、旅行者によって大きく変わります。例えば、エアコンの設備があるホテルに宿泊する旅行者は、バックパッカーや冒険旅行者に比べてリスクが低いと思われます。同様に、網戸が完備しエアコンのある住宅に長期滞在する人は、そのような設備のない家に住む人よりも感染に曝される可能性は少なくなります。最も感染リスクの高いのはマラリア流行のない国に移住した第1または第2世代の人々が、マラリアが流行している母国に戻って友人や親類を訪れるときです。こうした旅行者の多くは、マラリア流行国で育ち免疫があると思っているために、自分自身のマラリアのリスクを認めていません。しかし、獲得した免疫が失われるのは速く、このためこうした旅行者の感染リスクは、他の無免疫の旅行者と同じであると考えるべきです。また旅行者は、以前にマラリアに罹ったことがあったとしても再び感染することがあり、このため予防対策が相変わらず必要であることを認識すべきです。

防蚊対策

ハマダラカは夜間に吸血性が高くなるので、マラリアの伝染は主に日没から夜明けにかけて起こります。蚊との接触は、網戸で遮蔽された場所から出ない、蚊帳を使用する(なるべく防虫剤処理したもの)、夕方や夜間の時間帯には居間や寝室にピレスロイド系の殺虫スプレーを散布する、肌を露出しないような服装をすることで、減らすことができます。

旅行する人はすべて効果のある防蚊剤を使用する必要があります(Chapter 2、 Protection against Mosquitoes、 Ticks、 and Other Insects and Arthropodsを参照)。蚊が飛んでいると思われるときには、防蚊剤を肌の露出している部分に塗布しなければなりません。日焼け止め剤を使用する場合には、まず日焼け止め剤を塗ってから次に防蚊剤を塗ります。熱帯用防虫剤に加えて、ペルメトリン殺虫剤を蚊帳や衣服に散布すれば、防蚊対策の強化となります。

化学療法

CDCが勧告する一次化学療法レジメンでは、すべてマラリア流行地への旅行前、旅行中、旅行後に薬剤を服用するとしています。旅行前に薬剤の服用を始めれば、マラリア原虫に暴露する頃には抗マラリア薬が血中で働いているいうわけです。旅行前に化学療法レジメンを適切に選択するには、旅行者と医療機関はいくつかの要因を考慮しなければなりません。旅行日程を詳細に検討し、マラリア感染が発生している地域情報と比較検討したうえで、旅行地の国でマラリアが発生しているかどうか、およびその地域で深刻な薬剤耐性の報告があるかどうかを判断すべきです(Chapter 3, Yellow Fever and Malaria Information, by Countryを参照)。

そのほかの考慮すべき要因として、患者の健康状態、現在服用中の薬剤(薬物相互作用の評価のため)、薬剤にかかる費用、薬剤の副作用などがあります。マラリア予防に使用される薬剤の効能や使用制限については表3-10に掲載しています。マラリア予防化学療法レジメンを選択する際の追加的情報についてはwww.cdc.gov/malaria/travelers/drugs.htmlを参照してください。

熱帯熱マラリア原虫のクロロキン耐性が、カリブ海地域、パナマ運河以西の中米地域、一部の中東地域を除く熱帯熱マラリアのすべての流行地域で確認されています。さらに、スルファドキシン/ピリメタミン合剤の耐性も南米のアマゾン川流域、東南アジアの多くの地域、他のアジアの地域、アフリカの広範な地域に広がっています。メフロキン耐性もタイとビルマ(ミャンマー)およびカンボジアとの国境地帯、カンボジアの西部諸州、中国と国境を接するビルマ東部諸州、ラオスとビルマの国境地帯、タイ・カンボジア国境に接する地域、ベトナム南部で確認されています(地図3-10)。

一次予防化学療法とは別に、推定抗再発療法(最終期予防[terminal prophylaxis]ともいう)があり、これは曝露期間の終わり頃(あるいは曝露期間の直後)に薬剤を服用して、マラリアの再発、ならびに三日熱マラリア原虫や卵形マラリア原虫の休眠体によって引き起こされる遅発性発症を防ぐものです。マラリアが流行している世界のほとんどの地域では、カリブ海地域を除いて、再発性マラリアを引き起こす1種類以上の原虫がみられるために、こうした地域に旅行する人には三日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫のいずれかに感染するリスクがある程度あります。しかし個々の旅行者が実際にかかえるリスクがどの程度であるかを判断するのは困難です。推定抗再発療法は通常、(宣教師やボランティアなど)マラリア流行地に長期間滞在する人にのみ適応となります。

マラリア予防療法でCDCが使用を勧告している薬剤を海外の旅行先で入手することもできます。しかし勧告薬剤と非勧告薬剤の合剤が処方されることが少なくなく、米国以外ではこうした薬剤が用いられています。旅行者が海外でマラリア予防薬を手に入れることは絶対に控えるべきです。なぜなら、そのような薬剤の品質保証が無く、マラリア予防に効果がないかもしれず、ひどい副作用を起す可能性があるからです。こうした薬剤は不十分な品質管理のもとで製造されているか、偽薬であるか、あるいは不純物を含んでいることも考えられます。この件については、Chapter 2、 Perspectives:Counterfeit DrugsやFDAのウェブサイトhttp://www.fda.gov/Drugs/ResourcesForYou/Consumers/BuyingUsingMedicineSafely/BuyingMedicinefromOutsidetheUnitedStates/default.htmを参照してください。

化学療法に用いられる薬剤

アトバコン/プログアニル合剤

アトバコン/プログアニル合剤はアトバコンとプログアニルを一定の割合で混合して合剤としたものです。予防服用はマラリア流行地への旅行の1~2日前から始め、流行地に滞在中は毎日決まった時間に服用し、流行地を離れてからも7日間は毎日服用します(勧告用量については表3-11を参照)。アトバコン/プログアニル合剤は忍容性に優れ、副作用もまれにしかみられません。この薬剤をマラリア予防・治療に用いている人から最も多く報告される副作用には、腹痛、吐き気、嘔吐、頭痛があります。アトバコン/プログアニル合剤は体重が5kg以下の小児、妊娠中の女性、重篤な腎機能障害患者(クレアチンクリアランスが30mL/分以下)には適応となりません。プログアニルとワーファリンの間には理論的には薬物間相互作用があり、併用によるワーファリン作用の亢進が考えられますが、実際に副作用が起きた例は報告されていません。

クロロキンとヒドロキシクロロキン

リン酸クロロキンや硫酸ヒドロキシクロロキンをマラリア予防に使用できるのは旅行地にクロロキン耐性がみられない場合に限られます(地図3-09、3-10およびChapter 3のYellow Fever and Malaria Information、 by Countryを参照)。予防服用はマラリア流行地へ行く1~2週間前から始めます。週1回決まった曜日に服用し、マラリア流行地域旅行している間、およびその地域を離れてから4週間の間はこれを継続します(勧告用量については表3-11を参照)。胃腸障害、頭痛、眩暈、視力障害、不眠症、掻痒などの副作用が報告されていますが、大抵は服用を中止しなければならなくなるほど重篤なものではありません。関節リウマチの治療に使用されるような高用量のクロロキン投与では、合併症として網膜症が報告されていますが、マラリア予防に週1回のルーチン投与の場合にこのような重篤な副作用が起きるとは極めて考えにくいと思われます。クロロキンやその類似薬は乾癬を悪化させるという報告があります。クロロキンの服用後に副作用による不快症状が出る場合には、食事中に服用すると改善される場合があります。別の方法として、類似薬の硫酸ヒドロキシクロロキンのほうを服用すると副作用が改善されるかもしれません。

ドキシサイクリン

ドキシサイクリンの予防服用はマラリア流行地へ旅行する1~2日前に始めます。マラリア流行地を旅行中は毎日1回決まった時間に服用し、旅行地を離れてからも4週間の間は毎日服用するようにします。ミノサイクリン(ニキビの治療薬としてよく処方される)にような類似薬の抗マラリア効果については、データが十分ではありません。ミノサイクリンの長期投与を受けている人がマラリアの予防投与を必要とする場合には、旅行の1~2に前にミノサイクリンの服用を中止して、代わりにドキシサイクリンの服用を開始します。ミノサイクリンは、処方されたドキシサイクリンの投与がすべて終わってから、再び服用を開始します(勧告用量については表3-11を参照)。

ドキシサイクリンは光線過敏症の原因となることがあり、通常は皮膚に日焼けが起きやすくなります。こうしたリスクは日光に長時間当たるのを避けたり、日焼け防止薬を使用することによって最小限に抑えることができます。さらに、ドキシサイクリン服用すると腟カンジダ症に罹りやすくなります。胃腸障害の副作用(吐き気や嘔吐)は、食事時に服用したり、価格的に有利な塩酸ドキシサイクリンのジェネリック薬を用いずに、ドキシサイクリン一水和物や塩酸ドキシサイクリン腸溶剤を処方してもらうことにより、最小限に抑えることができます。食道炎が起きるリスクを減らすには、就寝前のドキシサイクリン服用を控えることです。ドキシサイクリンは、テトラサイクリンアレルギーの人、妊娠中の女性、幼児および8歳以下の小児では禁忌となっています。経口チフスワクチンTy21aの投与を行うには、ドキシサイクリンを服用してから24時間以上経ってからにします。

メフロキン

メフロキンの予防服用はマラリア流行地へ旅行する2週間以上も前から始めます。マラリア流行地を旅行中および旅行地を離れてからも4週間の間は毎週1回決まった曜日に服用するようにします(勧告用量については表3-11を参照)。メフロキンは予防服用の用量であっても、まれに重篤な(精神障害、痙攣などの)副作用があることが報告されています。こうした副作用は治療用量では発生の頻度が高くなります。予防服用の試験で報告されたそのほかの副作用として、胃腸障害、頭痛、不眠、奇妙な夢、視覚障害、抑うつ状態、不安感、めまいなどがあります。

市販後調査で時折報告されることのあるそのほかの重篤な精神神経病学的障害として、(知覚障害、振戦、運動失調などの)感覚性および運動ニューロパチー、動揺または不安、情緒変調、パニック発作、健忘症、精神錯乱、幻覚、攻撃性、妄想症、脳障害などがあります。また時々、精神科的症状がメフロキン服用中止後も長期間にわたり持続するという報告もあります。メフロキンや(キニーネやキニジンなどの)類似薬に対する過敏症の人、うつ病患者、最近うつ病を発症した病歴のある人、全般性不安障害、精神病、統合失調症、その他の重篤な精神疾患の患者、てんかんの患者ではメフロキンは禁忌となっています。

入手可能なデータからは、不整脈の持病のない場合には、メフロキンとベータブロッカーとを併用してもよいとみられます。しかし心臓の伝導系に異常がある人にはメフロキンの使用は禁忌となります。旅行者でメフロキンの処方を受ける人は、FDAのウェブサイトwww.fda.gov/downloads/Drugs/DrugSafety/ucm088616.pdfにもあるメフロキンの使用に関する注意事項を記した冊子を請求すべきです。

プリマキン

リン酸プリマキンはマラリア予防においては2種類の用途があります。一つは三日熱マラリア原虫の流行地域での一次予防として、もう一つは推定抗再発療法(最終期予防)として用いられます。

一次予防としてプリマキンを用いる場合は、マラリア流行地への旅行1~2日前に服用し、マラリア流行地を旅行中は1日1回決まった時間に服用し、さらに流行地を離れてからも7日間は毎日服用するようにします(勧告用量については表3-11を参照)。プリマキンによる一次予防を行えば、推定抗再発療法の必要はありません。

推定抗再発療法としてプリマキンを使用する場合は、マラリア流行地を離れてから14日間にわたり服用します。クロロキン、ドキシサイクリン、またはメフロキンを一次予防に使用する場合には、プリマキンは通常、流行地を離れても継続されるこれらの一次予防薬の服用期間の最後の2週間に予防薬とともに服用されます。アトバコン/プログアニル合剤を一次予防に使用する場合には、この薬剤の服用期間の最後の1週間はプリマキンとの併用服用で、その後の1週間はプリマキンの単独服用となります。プリマキンは一次予防薬と併用服用することが必要になります。しかし、それが不可能な場合には、一次予防薬の服用期間が終了してもなおプリマキンの服用を続けなければなりません。

グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)値が正常な人の場合、最も多くみられる副作用として、空腹時にプリマキンを服用したときに起きる胃腸障害があります。プリマキンを食事とともに服用するようにすれば、この障害をなくせるか最小ですみます。G6PD欠損症の人がプリマキンを服用すると、溶血が起きて死亡することもあります。プリマキンを使用するに先立ち、適切な検査を受けてG6PD欠損症でないことを確定することが不可欠となります。

マラリア感染が限定的な地域への旅行

マラリアの発生が散発的で、感染リスクが低いと判定される地域へ旅行する場合、CDCは防蚊対策のみを行い、予防薬の処方は行わないことを勧告しています(Chapter 3のYellow Fever and Malaria Information、 by Countryを参照)。

三日熱マラリア流行地域への旅行

主として三日熱マラリアが流行している地域への旅行する場合、G6PD欠損症でない旅行者では、防蚊対策を講じるとともに、プリマキンを第一予防薬として使用することが良策といえます。ただし、このようなプリマキンの使用法は、米国においては適応症外使用とみなされています。主として流行しているマラリア原虫種およびCDC勧告の予防薬については、Chapter3のYellow Fever and Malaria Information、 by Countryに記載しています。プリマキンの服用ができない人については、後述にある別の薬剤を使用することができます。ただしそれは抗マラリア薬に対する耐性の有無に依存します。

クロロキン感受性マラリア流行地域への旅行

クロロキン感受性マラリアの地域へ旅行する場合は、防蚊対策に加えて、マラリア予防に効果のある薬剤として、クロロキン、アトバコン/プログアニル合剤、ドキシサイクリン、メフロキンなど多くの選択肢があり、さらにG6PD欠損症以外の人はプリマキンを選択することができます。旅行期間が長期にわたる人は服用が週1回ですむクロロキンのほうを好み、一方、短期の旅行者は服用期間が短いアトバコン/プログアニル合剤やプリマキンを選ぶと思われます。

クロロキン耐性マラリア流行地域への旅行

クロロキン耐性マラリアの地域へ旅行する場合は、防蚊対策に加えて、化学予防薬としてアトバコン/プログアニル合剤、ドキシサイクリン、メフロキンを選択することができます。

メフロキン耐性マラリア流行地域への旅行

メフロキン耐性マラリアの地域へ旅行する場合は、防蚊対策に加えて、化学予防薬としてアトバコン/プログアニル合剤またはドキシサイクリンのいずれかを選択することができます。

幼児、小児、若年者のマラリア予防薬

幼児では年齢や体重に関わりなく、また小児や若年者の場合は年齢を問わずマラリアへの感染の可能性があります。このためマラリア感染地域へ旅行する小児にはマラリア予防として勧告されている対策を講じる必要があり、多くの場合抗マラリア薬の服用がこれに含まれます。米国では、入手可能な抗マラリア薬は経口製剤のみで、苦味を呈します。小児用用量の計算は体重に基づいて注意深く行い、成人用用量を上回ってはなりません。薬剤師であれば錠剤を粉砕して、決められた用量分のゼラチンカプセルを調剤することができます。子供がカプセルや錠剤を飲むことができない場合は、親はゼラチンカプセルを割ってその中の薬剤をアップルソース、チョコレートシロップ、ゼリーなどの甘味剤と混ぜ合わせて小児用に調製して、子供に用量分の薬剤を服用させるようにします。満腹状態のときに薬剤を服用させると胃障害と嘔吐を最小に抑えられます。

クロロキンとメフロキンは、年齢や体重を問わず幼児や小児にとってはマラリア予防薬の選択肢になりますが、その選択は旅行地での薬剤耐性の有無に左右されます。プリマキンは主に三日熱マラリアが流行している地域へ旅行する小児で、G6PD欠損症でない場合に、使用することができます。ドキシサイクリンは8歳以上の小児に使用できます。アトバコン/プログアニル合剤は体重が5kg以上の幼児・小児に使用できます。ただし、体重11kg未満の小児がマラリア予防の目的に使用する場合は米国では適応症外使用とされています。小児用の投与用量については表3-11を参照してください。

妊娠中または授乳中の女性の予防薬

妊娠中の女性がマラリアに感染した場合、そうでない女性の感染に比べて重篤化する可能性があります。マラリア感染では妊娠転帰が悪化するリスクが高くなり、早産、自然流産、死産などが起こりやすくなります。こうした理由やマラリア予防薬に効果が完全なものはないことから、妊娠中あるいは妊娠可能性のある女性がマラリア流行地へ旅行することはは可能であれば避けるべきです(Chapter 8, Pregnant Travelersを参照)。マラリア流行地への旅行が延期できない場合は、効果的な予防レジメンの投与が不可欠になります。

熱帯熱マラリア原虫のクロロキン耐性が報告されていない地域へ旅行する妊娠中の女性はクロロキンの予防服用ができます。クロロキンは、マラリア予防として勧告されている用量であれば、胎児に対する副作用の報告はありません。このため、妊娠がリン酸クロロキンや硫酸ヒドロキシクロロキンの予防服用の禁忌になることはありません。クロロキン耐性のある地域へ旅行する場合、妊娠中のマラリア予防薬として勧告が適応される薬剤はメフロキンだけになります。妊娠中のメフロキン投与例の検討、臨床研究の報告、それに妊娠中での不用意なメフロキン投与の報告例では、メフロキンの予防用量では胎児や妊娠の転帰に悪影響を及ぼすことがないことを示しています。アトバコン/プログアニル合剤については妊娠中の使用実績のデータが不足しているために、妊娠女性に対してはマラリア予防の勧告の適応にはなりません(2011年10月に更新)。

ドキシサイクリンは、妊娠中の使用については禁忌となっています。それは、類似薬のテトラサイクリンが胎児に対する歯の変色や形成異常、骨発育不全などの副作用を引き起こすリスクがあるからです。プリマキンを妊娠中に使用すべきでありません。なぜなら、この薬剤が胎盤を通過してG6PD欠損症の胎児に循環すると子宮内で溶血性貧血が起きるというリスクがあるからです。

授乳中の女性の乳汁に排泄される抗マラリア薬の量はごくわずかです。母乳に含まれる抗マラリア薬では予防効果が不足するため、予防薬が必要な乳児には表3-11に示す勧告用量の抗マラリア薬を処方してもらう必要があります。

クロロキンとメフロキンは幼児に処方しても安全であるので、幼児が母乳に排泄される少量の薬剤に暴露されても安全性に変わりはありません。授乳中の女性がドキシサイクリンを使用することに関してのデータは限られていますが、乳児に副作用が出る可能性は理論的に低いというのが多くの専門家の意見です。

ヒトの乳汁に排泄されるプリマキンの量がどの程度なのかについてのデータが全くないので、授乳中の女性がプリマキンを服用する前に、G6PD欠損症の検査を母子ともに受ける必要があります。体重が5kg未満の幼児がアトバコン/プログアニル合剤を服用する際の安全性についてのデータがないために、CDCは5kg未満の乳児に授乳中の女性に対してはこの薬剤をマラリア予防の適応としていません。しかし、この薬剤の使用による乳児へのリスクの可能性と女性が受ける抗マラリア効果の可能性を比較して後者が勝っている場合には、授乳中の乳児の体重を問わずに、女性はアトバコン/プログアニル合剤を治療に用いることができます(例えば、多剤耐性マラリアの流行地で授乳中の女性が熱帯熱マラリア原虫に感染し、しかも他の治療薬を用いるには支障がある場合)。

マラリア予防薬の選択

マラリア予防薬に関するCDCの勧告は旅行する国によって異なりますが、その情報はChapter 3のYellow Fever and Malaria Information、 by Countryに記載してあります。それぞれの国において使用が勧告される薬剤はABC順で国別に記載しており、記載した薬剤が複数ある場合、その効果はどれを選択してもほぼ同等です。抗マラリア薬はいずれも100%の効果があるものではなく、個人個人はそれぞれの防御対策を同時に取らなければなりません(防虫剤、長袖服、長ズボン、蚊が侵入しない部屋での就寝あるいは防虫処理した蚊帳の使用など)。ある地域に対し勧告されている薬剤が何種類かある場合、その選択には表3-10が役立ちます。

予防服薬中に副作用が起きた場合の薬剤の変更

マラリア予防のために使用が勧告された薬剤は、それぞれさまざまな作用機序があり、マラリア原虫のライフサイクルの中で作用する時期も異なります。このため、処方された薬剤の投与が終わる前に副作用のためにその薬剤を変更する必要がある場合、特に検討を要する点がいくつかあります(表3-12を参照)。

マラリア流行地域への旅行後の献血

マラリア流行地域に滞在したことがある人は、滞在した時間帯が日中であれ夜間であれ、米国では帰国後ある一定の期間は検血が禁止されています。マラリア非流行国に居住している人がマラリア流行地の旅行から戻った場合には1年間検血ができません。マラリア流行国の居住者の場合、マラリア流行地を去ってから3年間は献血ができません。またマラリアに感染したことのある人は治癒後3年間は献血が許可されません。献血のリスク評価が旅行医療サービス機関と血液銀行とでは異なることがあります。マラリア流行が比較的低い地域に短期間旅行し、しかも現地では感染リスクの低い行動を取るという旅行者から相談を受けた旅行医療サービス機関は、防蚊対策のみが必要でマラリア予防服用は必要でないという助言をするかもしれません。しかし帰国後、血液銀行はマラリア流行地に旅行したという理由で、1年間は献血を受け付けてくれない可能性があります。

表3-09 マラリア治療の勧告用量
薬剤 成人用用量 小児用用量 注釈
アトバコン/プログアニル合剤成人用錠剤1錠ににはアトバコン250mgとプログアニル100mgが配合されている 

小児用錠剤にはアトバコン62.5mgとプログアニル25mgが配合されている

成人用錠剤4錠を1日1回3日間連続して経口服用 体重別に次の用量を毎日、3日間連続服用5~8kg:小児用錠剤2錠9~10kg:小児用錠剤3錠

11~20kg:成人用錠剤1錠

21~30kg:成人用錠剤2錠

31~40kg:成人用錠剤3錠

41kg以上:成人用錠剤4錠

重篤な腎機能障害患者には禁忌(クレアチンクリアランス< 30mL/分)アトバコン/プログアニル合剤をマラリア予防に用いる場合には治療用としての適応にならない

 

体重が5kg未満の小児、妊娠中の女性、体重が5kg未満の乳児に授乳中の女性には適応にならない

 

アルテメテル/ルメファントリン合剤1錠にアルテメテル20mgとルメファントリン120mgが配合されている  3日間の投与スケジュールで、成人・小児を問わず体重別の用量を、全6回経口服用する。初回服用の8時間後に2回目を服用し、その後の2日間は1日2回の服用となる。5kg以上15kg未満:1回1錠15kg以上25kg未満:1回2錠

25kg以上35kg未満:1回3錠

35kg以上:1回4錠

メフロキンをマラリア予防に用いる場合にはこの薬剤を治療用に使用できない体重が5kg未満の小児、妊娠中の女性、体重が5kg未満の乳児に授乳中の女性には適応にならない

 

囲み3-01  CDCのマラリア予防法の勧告作成について
国家はマラリア調査によって得られたデータをCDCに提出する義務を負っていません。われわれは多くの情報源に積極的に働きかけてデータを集める作業を継続的に行っています。情報源として、WHO(本部および各支部)、国家マラリア対策プログラム、国際旅行医学会などの国際機関、CDCの海外スタッフ、米国陸軍、学術機関、研究機関、援助機関、医学文献での公表データ、などがあります。こうしたデータに対しては信頼性や正確性についての判定も行っています。可能であれば、マラリア流行の動向を評価し、当該国が取っているマラリア対策に関する既知の情報、あるいは天災、戦争、その他マラリア対策、正確な調査、報告に支障が生じるやむをえない事態に関する情報と照らし合わせてデータを検討しています。また当該国への旅行量や米国監視システムに報告された感染件数などの要因も検討の対象としています。こうした検討事項すべてに基づいて、われわれは、当該国でマラリア流行が発生している地域、深刻な抗マラリア薬への耐性、流行しているマラリア原虫の割合、化学予防薬の選択に関する勧告について正確な情報を伝えるように努力をしています。

 

表3-10  マラリア予防薬を選択する際の検討事項
薬剤 使用を選択すべき理由 使用を避けるべき理由
アトバコン/プログアニル合剤 (1)    服用開始が旅行の1~2日前なので、差し迫った旅行には好都合(2)    毎日1回の服用を好む人には良い(3)    旅行後の服用期間が14日間ではなく7日間しか必要ないので短期間の旅行には便利(4)    忍容性に優れ、副作用はまれにしか起きない(5)    小児用錠剤があり、他の薬剤よりも利便性が高い

 

(1)    妊娠中の女性や体重5kg未満の乳児を授乳中の女性には使用できない(2)    重篤な腎機能障害患者は使用できない(3)    他の選択薬に比べて高価なことが多い(特に長期間の旅行)(4)    人によっては(小児も含め)毎日服用を嫌う場合がある 

 

クロロキン (1)    人によっては週1回の服用が良いという場合がある(2)    週1回の服用ですむため長期間の旅行には好都合(3)    関節リウマチ治療で既に長期にわたりヒドロキシクロロキンを服用している人は、別の薬剤を服用しなくてもすむ(4)    妊娠1~3期のどの時期でも使用可能  (1)    クロロキン耐性やメフロキン耐性の地域では使用できない(2)    乾癬を悪化させる恐れがある(3)    人によっては週1回の服用を嫌う場合がある(4)    短期間の旅行であっても、旅行後4週間も服用を続けなければならないのは不都合である(5)    旅行の1~2週間前に服用を開始しなければならないので、差し迫った旅行の場合には選択できない

 

ドキシサイクリン (1)    毎日1回の服用を好む人には良い(2)    服用開始が旅行の1~2日前なので、差し迫った旅行には好都合(3)    最も安価に入手できることが多い(4)    ニキビ予防のために既に長期にわたりドキシサイクリンを服用している人は、別の薬剤を服用しなくてもすむ(5)    ドキシサイクリンには(リケッチア感染症やレプトスピラ症などの)他の感染症を予防する働きもあり、野外でのハイキング、キャンプ、水泳を計画している人には好都合である

 

(1)    妊娠中の女性や8歳未満の小児は使用できない(2)    人によっては毎日の服用を嫌う場合がある(3)    短期間の旅行であっても、旅行後4週間も服用を続けなければならないのは不都合である(4)    抗生物質服用によって腟カンジダ症に罹りやすくなる女性にとっては、別の薬剤のほうが好ましい(5)    人によっては日光過敏症になることを避けたい場合がある

(6)    人によってはドキシサイクリン服用により胃腸障害になる不安がある

 

 

メフロキン (1)    人によっては週1回の服用が良いという場合がある(2)    週1回の服用ですむため長期間の旅行には好都合(3)    妊娠中でも使用できる  (1)    メフロキン耐性の地域では使用できない(2)    一部の精神障害の患者では使用できない(3)    痙攣性障害の患者では使用できない(4)    心臓伝導異常の患者では適応外である(5)    旅行の1~2週間前に服用を開始しなければならないので、差し迫った旅行の場合には選択できない

(6)    人によっては週1回の服用を嫌う場合がある

(7)    短期間の旅行であっても、旅行後4週間も服用を続けなければならないのは不都合である

 

プリマキン (1)    三日熱マラリアの予防には最も効果がある薬剤で、流行している原虫種の90%以上が三日熱マラリアである地域への旅行に適している(2)    旅行後の服用期間が4週間ではなく7日間しか必要ないので短期間の旅行には便利(3)    服用開始が旅行の1~2日前なので、差し迫った旅行には好都合(4)    毎日1回の服用を好む人には良い 

 

(1)    グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症の人は使用できない(2)    G6PD欠損症の検査を受けたことのない人には使用できない(3)    G6PD検査には費用と時間がかかる。しかし検査は1度だけ行えば良い。G6PD値が正常だと確認され証明が得られれば、次回以降のプリマキン処方時にはG6PD検査は必要ない(4)    妊娠中の女性には使用不可(5)    授乳中の女性の場合、乳児がG6PD検査を受けていないと使用できない

(6)    人によっては(小児も含め)毎日服用を嫌う場合がある

(7)    人によってはプリマキン服用により胃腸障害になる不安がある

 

 

 

表3-11  マラリア予防薬として用いられる薬剤
薬剤 用途 成人用用量 小児用用量 注釈
アトバコン/プログアニル合剤 すべての流行地域で予防服用 成人用錠剤1錠にはアトバコン250mgと塩酸プログアニル100mgが配合されている。成人用には1日1錠を経口服用する。 小児用錠剤1錠にはアトバコン62.5mgと塩酸プログアニル25mgが配合されている。体重別に以下の用量を服用する。5~8kg:小児用錠剤を毎日1/2錠8~10kg:小児用錠剤を毎日3/4錠

 

10~20kg:小児用錠剤を毎日1錠

 

20~30kg:小児用錠剤を毎日2錠

 

30~40kg:小児用錠剤を毎日3錠

 

40kg以上:成人用錠剤を毎日1錠

 

マラリア流行地へ旅行する1~2日前から服用し、マラリア流行地に滞在中および流行地を去ってから7日間は、毎日決まった時間に服用する。重篤な腎機能障害患者には禁忌である(クレアチンクラランスが30mL/分以下)。アトバコン/プログアニル合剤は食事または飲用乳製品とともに服用する

 

体重5kg未満の幼児、妊娠中の女性、体重5kg未満の乳児に授乳中の女性には適応とはならない。

 

用量が1錠分未満の場合は、薬剤師に依頼して1回分1カプセルとして調製してもらう必要がある。本文を参照。

 

リン酸クロロキン クロロキン感受性マラリアの流行地域で予防服用 500mg(クロロキン塩基300mg)を毎週1回経口服用する。 8.3mg/kg(クロロキン塩基5mg/kg)を毎週1回経口服用する。最大用量はクロロキン塩基300mg。 マラリア流行地へ旅行する1~2週間前から服用し、マラリア流行地に滞在中および流行地を去ってから4週間は、毎週決まった曜日に服用する。乾癬を悪化させる恐れがある。
ドキシサイクリン すべての流行地域で予防服用 毎日100mgを経口服用する。 8歳以上の小児に対し、毎日2.2mg/kgを経口服用。最大用量は100mg/日。 マラリア流行地へ旅行する1~2日前から服用し、マラリア流行地に滞在中および流行地を去ってから4週間は、毎日決まった時間に服用する。8歳未満の小児および妊娠中の女性には禁忌。
硫酸ヒドロクロロキン クロロキンの代用薬として予防服用。使用はクロロキン感受性マラリアの流行地域に限定される。 400mg(クロロキン塩基310mg)を毎週1回経口服用する。 6.5mg/kg(クロロキン塩基5mg/kg)を毎週1回経口服用する。最大用量はクロロキン塩基で310mg。 マラリア流行地へ旅行する1~2週間前から服用し、マラリア流行地に滞在中および流行地を去ってから4週間は、毎週決まった曜日に服用する。
メフロキン メフロキン感受性マラリアの流行地域で予防服用 250mg(メフロキン塩基228mg)を毎週1回経口服用する。 体重別に以下の用量を毎週1回経口服用する。9kg以下:5mg/kg(メフロキン塩基4.6mg/kg)9~19kg:1/4錠

 

19~30kg:1/2錠

 

30~45lg:3/4錠

 

45kg以上:1錠

 

 

マラリア流行地へ旅行する2週間以上前から服用し、マラリア流行地に滞在中および流行地を去ってから4週間は、毎週決まった曜日に服用する。メフロキンや(キニーネやキニジンなどの)類似薬に対する過敏症の人、うつ病患者、最近うつ病を発症した病歴のある人、全般性不安障害、精神病、統合失調症、その他の重篤な精神疾患の患者、てんかんの患者ではメフロキンは禁忌。精神障害の人やうつ病の既往歴のある人に使用するには慎重さが求められる

 

心臓の伝導系に異常がある人には禁忌

 

 

プリマキン(注) 主に三日熱マラリアが流行している地域に短期間旅行する場合の予防服用 52.6mg(プリマキン塩基30mg)を毎日経口服用 0.8mg/kg(プリマキン塩基0.5mg/kg)を毎日服用。最大用量は成人用用量。 マラリア流行地へ旅行する1~2日前から服用し、マラリア流行地に滞在中および流行地を去ってから7日間は、毎日決まった時間に服用する。G6PD欠損症の人には禁忌。妊娠中や授乳中の女性には禁忌。ただし、授乳中の乳児のG6PD値が正常だとする証明があれば使用できる。

 

三日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫によるマラリア再発のリスクを軽減するための推定抗再発療法(最終期予防)として服用 マラリア流行地を去った後14日間の間52.6mg(プリマキン塩基30mg)を毎日経口服用 マラリア流行地を去った後14日間の間0.8mg/kg(プリマキン塩基0.5mg/kg)を毎日服用。最大用量は成人用用量。 三日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫(あるいはその両方)に長期間曝露した人に適応となる。G6PD欠損症の人には禁忌。妊娠中や授乳中の女性には禁忌。ただし、授乳中の乳児のG6PD値が正常だとする証明があれば使用できる。

 

(注) プリマキンを服用しようとする人はすべてグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)値が正常であるとする検査証明が必要である

 

表3-12  予防服薬中に副作用が起きた場合の薬剤の変更
服用を中止する薬剤 服用を開始する薬剤 注釈
メフロキン ドキシサイクリン ドキシサイクリンに切り替えて、マラリア流行地に滞在中は毎日服用する。マラリア流行地を去ってからも4週間服用を続ける。
アトバコン/プログアニル合剤 (1)    アトバコン/プログアニル合剤へ変更後、マラリア流行地に3週間以上も滞在する場合には、流行地を去るまでアトバコン/プログアニル合剤を毎日服用し、流行地を去ってからも1週間服用を続ける。(2)    アトバコン/プログアニル合剤へ変更後、マラリア流行地の滞在が3週間以内の場合は、変更してから4週間の間毎日アトバコン/プログアニル合剤を服用する。(3)    マラリア流行地を去った後にアトバコン/プログアニル合剤へ変更した場合には、流行地を去ってから4週間経つまで毎日アトバコン/プログアニル合剤を服用する。
クロロキン 変更の適応とされない
プリマキン 変更の適応とされない
ドキシサイクリン メフロキン 変更の適応とされない
アトバコン/プログアニル合剤 (1)    アトバコン/プログアニル合剤へ変更後、マラリア流行地に3週間以上も滞在する場合には、流行地を去るまでアトバコン/プログアニル合剤を毎日服用し、流行地を去ってからも1週間服用を続ける。(2)    アトバコン/プログアニル合剤へ変更後、マラリア流行地の滞在が3週間以内の場合は、変更してから4週間の間毎日アトバコン/プログアニル合剤を服用する。(3)    マラリア流行地を去った後にアトバコン/プログアニル合剤へ変更した場合には、流行地を去ってから4週間経つまで毎日アトバコン/プログアニル合剤を服用する。
クロロキン 変更の適応とされない
プリマキン 変更の適応とされない
アトバコン/プログアニル合剤 ドキシサイクリン ドキシサイクリンに切り替えて、マラリア流行地に滞在中は毎日服用する。マラリア流行地を去ってからも4週間服用を続ける。
メフロキン 変更の適応とされない
クロロキン 変更の適応とされない
プリマキン プリマキンへの変更するケースはないと思われる。なぜなら、この薬剤はG6PD活性が正常な人が主として三日熱マラリアが流行している地域へ旅行する場合にのみ適応となるからである。仮にプリマキンへ変更することがある場合には、変更後、流行地滞在中は毎日プリマキンを服用し、流行地を去ってからも1週間服用を続ける。
クロロキン ドキシサイクリン ドキシサイクリンに切り替えて、マラリア流行地に滞在中は毎日服用する。マラリア流行地を去ってからも4週間服用を続ける。
アトバコン/プログアニル合剤 (1)    アトバコン/プログアニル合剤へ変更後、マラリア流行地に3週間以上も滞在する場合には、流行地を去るまでアトバコン/プログアニル合剤を毎日服用し、流行地を去ってからも1週間服用を続ける。(2)    アトバコン/プログアニル合剤へ変更後、マラリア流行地の滞在が3週間以内の場合は、変更してから4週間の間毎日アトバコン/プログアニル合剤を服用する。(3)    マラリア流行地を去った後にアトバコン/プログアニル合剤へ変更した場合には、流行地を去ってから4週間経つまで毎日アトバコン/プログアニル合剤を服用する。
メフロキン 変更の適応とされない
プリマキン 変更の適応とされない
プリマキン ドキシサイクリン ドキシサイクリンに切り替えて、マラリア流行地に滞在中は毎日服用する。マラリア流行地を去ってからも4週間服用を続ける。
アトバコン/プログアニル合剤 アトバコン/プログアニル合剤へ変更後、マラリア流行地に滞在中はアトバコン/プログアニル合剤を毎日服用し、流行地を去ってからも1週間服用を続ける。
クロロキン 変更の適応とされない
メフロキン 変更の適応とされない

 


MENU